小林製薬の紅麹問題を考える

ここでは善玉核酸の話は置いておいて,サプリメントの安全性に大きな問題を投げかけた小林製薬の紅麹問題を発酵生産の現場経験者の目から考えてみます。

1,プベルル酸かどうか以前にもっと大事な事
問題ロットにプベルル酸が検出され,他にも2成分が検出されたようです。報道では,原因物質がプベルル酸かどうか,プベルル酸の試薬(合成)の入手困難さなどが原因解明のネックのようなイメージとなっていますが,まず初動として大事な事は,問題ロットと疾患との因果関係の解明と考えます。マウスの急性腎障害モデルを用いて,問題ロットと正常ロットを比較する事で,問題ロットと腎疾患の因果関係が1週間程度で判ります。急性毒性試験でも,少なくとも事件との因果関係は判ります。
小林製薬は問題発覚後2カ月も発表しませんでしたが,その間にマウス試験を実施する時間は十分にあり,また,その後も今まで十分に時間がありました。このようなケースでは,問題ロットと疾患との因果関係を明確にする事が先決で,次に原因物質がプベルル酸かどうかを検証するという手順が望ましいと考えます。
サプリメントの摂取をやめた事で症状の回復が見られた事から,今となっては因果関係に疑う余地はありませんが,危機管理には,初動での問題解決能力が問われていると思います。

2.雑菌汚染について
培養時間が50日と極端に長い事,過去に培養器に温水タンクの温水が流入した事,設備の老朽化で工場を大阪から和歌山へ移転した事などで,多くの技術者は雑菌汚染(コンタミ)が原因と推測しています。
私はかつて240KLの発酵槽でアミノ酸の連続発酵などの仕事に従事していましたが,当時の老朽化した発酵槽でのコンタミ原因の多くは,冷却管の老朽化による腐食やクラックからの冷却水の流入でした。水滴が生じる程度のピンホールを溶接で潰すのですが,老朽化した冷却管では潰しても,潰しても新たなピンホールに悩まされました。想像ですが,おそらく大阪の工場でも同様であったと推測します。
その結果,工場を和歌山に移したと考えられます。換言すれば,小林製薬はコンタミ菌汚染を昨年から知っていたと考えるのが妥当です。

3.コンタミ(雑菌汚染)は製造記録でわかるはず
雑菌汚染の確認は簡単で,寒天培地に培養液を塗布するだけで微量のコンタミ菌の有無が簡単に判断できます。コメ麹の場合は,培地のコメを水に懸濁して塗布するだけです。50日の長期培養であれば,必ず少なくとも何日か毎にはサンプルチャックをしているはずです。過去に一度でもコンタミの問題があった場合,コンタミの有無,さらには深刻度の判断が必要です。

従って,紅麹の製造記録を見れば,必ずコンタミの記録が残っているはずです。今の段階で,コンタミが確認されていないのは,小林製薬が過去の製造記録の中で少なくともコンタミに関する情報を破棄している事も考えられます。小林製薬の工場はGMPに準拠していなので,記録が無いと言われればそれ以上追及できません。

4.精製,出荷記録で判断できるはず
コンタミのチェックは,製造判断に重要です。私が従事したアミノ酸発酵では,雑菌が混入しても,精製工程で雑菌や雑菌の生成物は除去できるので,コンタミ汚染の培養液を放流する事はなく,適当なタイミングで培養を止めて生成したアミノ酸は回収しました。

もし,小林製薬の製造が毎回確実に50日(土日などでの変更を除く)であれば,コンタミ菌汚染は無かったと考えられます。しかし,もし培養日数にばらつきがある場合には,コンタミを認識していたと考えられます。培養記録が残っていない場合でも,精製の製造記録や製品の出荷記録から,培養日数が一定であったかどうかが解析できます。

5.雑菌の分離,確認
製造工程で雑菌が確認された場合,品質保証の観点から,設備の点検(例えば温水タンクに存在するかなど)で混入経路を探すとともに,その菌株の安全性はチェックされるはずです。小林製薬の麹菌問題がコンタミ菌であった場合には,そのような対策さえなされていれば,今回の問題は避けられた可能性があります。

以上,本件では,サプリメント業界においては極めて重大な事象であったにも関わらず,小林製薬から品質保証に関する具体的なコメント(例えばコンタミの有無など)が出されず,原因究明も遅れている事から,培養製造の経験者目線で素直な印象を書かせて頂きました。
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